提携は茶番劇ではなかった
長銀とUBSの提携は茶番劇ではなかった。
UBSが、長銀の経営危機に乗じて、おいしい部分を持っていこうとしたわけではない。
当然ながら、提携を結んだ時点では、UBSは長銀の粉飾決算を知らなかった。


双方にメリットがあった。
当時のUBS(スイス銀行)は世界中から集まる膨大な信託財産を抱え、運用力に秀でていた。
長銀としては、UBSと提携することで、日本の取引先企業に対して、UBSの為替関連などのデリバティブ(金融派生商品)をはじめとした金融ノウハウを紹介できると想定された。
UBSの力を借り、日本の富裕層に食い込み、安定的収益源をつかむことが可能になるはずだった。
UBSは、英国や米国の投資銀行を矢継ぎ早に買収していた。日本をはじめとするアジア進出が注目されていた。
長銀との提携により、日本版ビッグバンの中で個人金融資産1200兆円の運用に携わることを目指した。
長銀を「アジアビジネスの拠点」(UBSウォーバーグのヨハネス・デギア会長)にする方針だったのだ。
当時のスイス銀行(現:UBS)
スイス銀行(SBC、現UBS)は1872年設立。スイスの3大銀行グループの一角だった。
本部はスイス・バーゼル。世界48か国で営業している国際的な銀行だった。高度な資産運用力が評価されていた。有宗良治氏らスイス銀行関係者に関する情報サイトによると、スイスの3大銀行の中では最も投資銀行の性格が強かった。
1995年に英国の投資銀行「エス・ジー・ウォーバーグ」、1997年に米国の投資銀行「ディロン・リード」を相次いで買収した。
以下の4部門で構成されていた。
- 投資銀行(ウォーバーグ)
- 法人資産運用(ブリンソン)
- 個人資産運用のプライベート・バンキング
- スイス国内の商業銀行
このうちインベストメント・バンク(投資銀行)部門のUBSウォーバーグが、欧米アジアで国際証券業務など高度な金融サービスを展開していた。
1996年12月末で総資産2266億700万ドル(約25兆8300億円)、税引き前利益13億600万ドル(約1482億円)。従業員2万7490人。
当時の長銀は
金融債を発行して長期資金を融通する長期信用銀行3行の1つだった。
国内24本支店、海外41拠点を持っていた。
1997年3月末の総資産は29兆1600億円、資本金は3200億円だった。
従業員数は4481人だった。
提携の協議機関を設置
長銀とUBS(当時:スイス銀行)は、提携に関する最高意思決定機関として、「協議機関(ステアリング・コミッティー)」を設立することにした。
協議機関の構成メンバーは、以下の通り。
長銀 |
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UBS |
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長銀社内に「投資銀行業務室」を新設
また、提携にあわせて、長銀は1997年10月1日付で「投資銀行業務室」を新設し、提携の事務局を置いた。